この照らす日月の下は……

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 とりあえずの安全を確保した。そう判断してカガリは近くのシェルターへと移動しようとする。
「どこに行くつもりなの?」
 その背中に向かって彼女がこう問いかけてきた。
「これ以上、お前と同行する理由はないはずだが?」
「そんなこと言えると思って? 我が軍の最高機密に触れた人間が」
 言葉とともに彼女は銃口を向けてくる。
「触れたくて触れたわけじゃない。お前が勝手に説明したんだろうが」
 あきれたようにそう言い返す。
「それとも、わざとそうしたのか?」
 言葉とともに彼女をにらみつける。
「……それは……」
「自分たちの都合に他人を巻き込むな」
 そんなのはセイランだけで十分だ。心の中だけでカガリはそう付け加えた。
 その時だ。
「カガリ!」
 聞き覚えがありすぎる声が耳に届く。
「……カナードさん?」
 何故ここに、と一瞬考える。だが、すぐに『キラに会いに来ていたのか』と思いつく。
「そこの地球軍士官! お前、誰に銃口を向けているのか、わかっているのか?」
 言葉とともに彼は自分と彼女の間に割って入る。
「こいつに何かあった場合、誰がなんと言おうと、オーブは今後地球軍に手を貸すことはない。その引き金を自分の手で引く覚悟があるのか?」
 そう言いながら彼は女性士官をにらみつけた。
「……あなた、何者?」
「他人に問いかける前に自己紹介はないのか? ずいぶんと地球軍の質も低下したものだ」
 これは間違いなく相手を煽っているのだろう。それほどけんかを売りたいのだろうか、彼は。
 しかし、何故、彼はこの場にいるのだろう。
 そういえば、この先にサハクのシェルターがあったはず。そう思いながら周囲を見回せば植え込みの影からキラの姿が確認できた。
「それとも、ここがオーブだからか? そういえば、先ほど民間人をシェルターから追い出してくれた連中も地球軍の軍人だと言っていたな。映像に残してあるから、後で正式にサハク当主から抗議が行くだろうな」
 サハクのシェルターから民間人を追い出してくれたことに関して、と彼は笑う。
「そんなこと!」 「自分はしていないって? 民間人に銃口を向けていれば同じことだろう」
 カナードの言葉は間違いなく正論だ。そのせいか、相手は言葉に詰まっている。
「そういうわけで、カガリは返してもらいます。後はご自分達でどうぞ」
 そう言いながら彼はさりげなくカガリを自分の方へと引き寄せた。次の瞬間、彼女の身体を抱き上げると地面を蹴った。
「待ちなさい!」
 女性士官はそう叫ぶ。
 それだけならば何の害もなかっただろう。
 しかし、だ。
「止らないなら撃ちます!」
 言葉とともに彼女はカナード達が移動した方向へと銃口を向けた。
 だが、このときはまだ脅しのつもりだったのではないか。
 反射的に力を込めてしまったのか、指が引き金を引いてしまったのだ。
 もっとも、完全に照準を合わせられていなかった。だから、銃弾の軌跡はカナードとカガリからはそれていた。
 しかし、だ。幸か不幸か、その先には別の少女がいた。
「フレイ!」
 その事実に気がついたキラが彼女の身体を突き飛ばすのが見える。
「キラ!」
 無意識のうちにそう叫ぶ。
「撃つつもりはなかったの……」
 背後で女性士官がそうつぶやいている。だが、それに言葉を返す者は誰もいなかった。


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最遊釈厄伝